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202312/22

匂いの美学④

匂いの美学④

・匂いと健康

 さらに一般的な木の香りにも、人の健康に関するさまざまな効用があることも分かってきました。

 木材が放つ芳香のフィトンチッドとは、植物の殺菌作用を指した言葉です。樹木が身を守りながら生長するために、菌や害虫を排除する目的で獲得した能力のひとつです。

 この樹木が出すフィトンチッドが溢れている森林浴をすれば、人は生き返ったような気持ちになります。木の香りにはリラックスしたり、ストレスを解消したりする効果があるのです。しかも、フィトンチッドの含有量は日本の木材の方が多いといわれます。

 木の匂いといえばヒノキです。ヒノキの香りには鎮静作用があることが脳波の測定から明らかになっています。昔から憧れになっているヒノキ風呂は、気分を安らげ疲れをとるベストな組み合わせです。

 また、スギの香りが睡眠促進に効果があるという実験も行われています。スギの香り成分であるセドロールと睡眠に関する実験です。セドロールの匂いがあるのとないのとでは、総睡眠時間も睡眠効率も変わります。スギの香りによって睡眠の質が良くなっているのです。

 日本の線香は、古来、杉の葉から作られてきました。乾燥させて挽いたものに水を加えて固めるだけで、杉の葉のヤニ成分で固まり線香になります。こうした香にも気持ちを落ち着かせる効果があります。

 1986年に静岡大学農学部が行った有名なハツカネズミの生存実験があります。木製と金属製・コンクリート製のケージで、幼いハツカネズミを飼育し、20日後の生存率を比較しました。もちろん湿度や温度や給餌の条件は同じです。

 結果は、木製ケージでは85%が生存し、金属製では約40%、コンクリートでは7%しか生き残りませんでした。温熱環境によってコンクリートでは体温を奪われた母ネズミが授乳をやめたなど、多くの原因があると思われますが、木の香りによるストレス解消も要素のひとつにあるのではないでしょうか。この生存率のデータを反転させて死亡率のグラフにしてみると、もっとショックです。

 金属やコンクリートの匂いには、動物を安らかにしてくれる匂い成分はありません。嗅覚は他の感覚とは違い、脳に直結して動物の本能にも直接的に影響を及ぼす感覚です。動物が生存するために最初に最初に身につけてきた感覚が嗅覚なのです。

 その後も、木製のケージのネズミは温和で、コンクリートのケージのネズミはストレスが高まり攻撃的になっていました。

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