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202312/22

匂いの美学③

匂いの美学③

・匂いと思い出

 確かに嗅覚は、記憶に直結していると感じることがあります。ある特定の匂いを嗅いだ時に、まるでフラッシュバックのように昔の記憶を呼び覚ますことがあります。

 たとえば塩素の匂いを嗅ぐと、子どもの頃に一生懸命泳いだ小学校のプールを思い出します。先生が消毒のために白い薬剤を投げ入れていました。

 道に水を撒くと、埃が立つような匂いがします。太陽が照りつけたひなたの匂いです。真夏の強い日差しを思い出します。

 新聞を開くとインクの匂いがします。この匂いを昔の人は父親の匂いと感じている人も多いようです。

 こうした匂いが記憶を呼び覚ます効果のことを、プルースト効果といい、フランスの作家マルセル・プルーストが、匂いによって思い出される幼少の記憶を書いた「失われた時を求めて」という小説に由来しています。

 匂いによって想起される記憶というのは無意識的なものです。覚えようとしたり、思い出そうとしたりして意識されるものではありません。しかし嗅覚と脳の関係から、私たちはごく普通に生活している中でも、匂いと記憶を脳の中に刻みながら生きているのです。

 また、日本人は匂いについても敏感で、香道という芸術も築き上げました。香道の世界では、香は嗅ぐのではなく聞くといいます。この香道の中でも、源氏香では匂いを源氏物語と重ねて楽しみます。使われるのは六国と呼ばれる6つの香りですが、こうした香道に使われてきたのは香木であり、木材には色々な匂い成分が含まれています。

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